「検索しても出てこない、人や物に出合いたい」 神戸 #ライター交流会レポート
2023年12月2日、有限会社ノオトが主催する「神戸 #ライター交流会」が行われました。#ライター交流会 が神戸で催されるのは約6年ぶり。前回の開催時とおなじく、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)が会場となりました。
神戸はこの日、冬のからりとした快晴。関西で活動するライターさんを中心に、たくさんの方が来場しました。
今回のテーマは、「西を拠点に、自由に働く!」。
ゲストスピーカーとして、神戸にオフィスを構える有限会社りす代表の藤本智士さんと、大阪の株式会社人間・人間編集部編集長のトミモトリエさんが登壇しました。
藤本さんは、日本のローカルにフォーカスした雑誌や書籍の制作を行う編集者。紙、Webメディアの編集にとどまらず、アートディレクションや商品プロデュースなど、「編集」を幅広くとらえた活動を行っています。
トミモトさんは、東京から大阪に拠点を移し活躍する編集者です。2022年には株式会社人間の自社メディア「ヘンとネン」を立ち上げ、編集長を務めています。また、関西圏の編集者を育てる「関西編集保安協会」の主催メンバーでもあります。
和歌山県出身・ノオト代表の宮脇が進行しながら、9つのキーワードをもとに、関西拠点を置くお二人によるトークセッションが行われました。
首都圏外でも、コンテンツは生み出せる
2023年に「関西編集保安協会」を立ち上げたトミモトさん。背景には、「西の編集者を育てていきたい」という思いがあったと言います。メディアが首都圏に一極集中しており関西のクリエイターたちが東京に旅立ってしまうことにも、懸念を抱いていたそう。
「人間編集部を立ち上げてから、関西の優秀なクリエイターたちをもう10人以上東京に送り出しているんですよ。就職が決まったり、注目されて上京したりで。活躍することは喜ばこばしいことだし、応援したい気持ちはもちろんあるんですが、寂しさもあって。関西の優秀なクリエイターがどんどん減っていってしまうんですよね。だからこそ、関西でもクリエイターとしてしっかり活動できる土壌づくりがしたいと思っているんです」(トミモトさん)
藤本さんは、「東京の情報」が文化の中心にあることに疑問を抱いたことが、ローカルに焦点を当てたクリエイティブを始めるきっかけだった、と言います。
「首都圏メディアからの受注仕事をやめて、自分で雑誌を作り始めたんです。神戸から地方まで車を走らせて取材に行くんですけど、当初はお金がなくて。高速道路にすら乗れずひたすら下道を行っていたんですよ。でも、それが逆に良かったんです。“あ、この神社きれいやなぁ”って思ったら、そのままその神社の人に声かけて、取材して……。台割に縛られるのがいやだから、構成も考えずに行き当たりばったりで雑誌を作るスタイルでした。ある意味メディアへの反逆というか、かなりアバンギャルドな制作をやっていたなと、今になっては思いますね」(藤本さん)
「街」に暮らす人びとの息遣いを感じたい
街で出会った人に声をかけていく、という藤本さんの取材スタイルにトミモトさんも大きく頷いていました。
「私も人とのコミュニケーションの中で新しい情報を得ています。飲み屋で出会ったおっちゃんと意気投合して、そこから色んな人を紹介してもらうこともしばしばありますね(笑)。人間編集部の自社メディア『ヘンとネン』では、大阪の超生命体を紹介しているんですね。超生命体っていうのは、大阪にいる熱量の高いオモロい人達のことなんですけど。そんな超生命体って、どれだけネットで検索しても出てこないんですよ。でも確実に街の中にいて、大阪を盛り上げている。だから街で探して、会いに行くしかない」

「ヘンとネン」の「超生命体の偏愛図鑑」
藤本さんも、「検索しても出てこない」ものを見つけることが、編集という仕事の醍醐味だと語ります。
「今の時代、編集者もすぐ検索しちゃう。そんなのもったいないじゃないって思うんです。すでに誰かが“いいね”って言ったものに注目しても、あんまり意味がない。だって、まだ“いいね”って言われていない人や物って、めちゃくちゃあるんですよ。僕は過去に、ローカルラジオ局で、街の人がひとり語りする番組のプロデュースをしていたことがありました。そこで、街の素朴な車の修理屋さんが実はすごい矜持を持って仕事してるとか、書道教室のおばちゃんが語りながら涙ぐむとか、そういうシーンにものすごく感動して。そういう人の源泉に触れながら仕事をしたいなって想いは常にありますね」(藤本さん)

藤本さんが制作した書籍や雑誌の数々
広義の「編集」を考える
そう話す藤本さんは、日本に「マイボトル」という概念を広めた第一人者でもあります。日々ペットボトルを捨てることに抵抗を感じ「一人ひとりが水筒を持ち歩く世の中を作りたい」と、魔法瓶メーカーを巻き込みながら世の中にマイボトルの概念を広めていきました。
「僕は根本的に、編集はテキストメディアだけじゃないって思っています。だから本や雑誌だけじゃなくて、プロダクトに関しても、自分で企画して、プレゼンして、自分で仕事を作ってきました」(藤本さん)
藤本さんが言う通り、「編集」という言葉の意味や認識は、人それぞれ解釈が異なるかもしれません。
「編集って、めちゃくちゃ広い言葉ですよね。ライターが編集者になるとイメージする人もいるようですが、ライティングできない編集者でも良い。何かを面白がってそれを再構築したり、角度を変えてみたりすることができれば、それが立派な編集スキルになると思います」(トミモトさん)
編集者の幸せって?
最後のトークテーマは「編集者やライターの幸せ」について。編集を中心に活動するお二人が幸せを感じる瞬間を教えてもらいました。
「僕はとにかく現場が大好き。取材中がマックスで楽しいですね。意図せぬことだけれど、求めていたものに出会えた瞬間は、ドーパミンが大放出します。だから、みなさんにも現場を大切にできるライターであってほしいですね。取材で100%持って帰るぞって思って臨んで欲しい。そうすればすごく楽しいし、幸せも多く味わえると思うから」(藤本さん)
「私は、限界を突破した瞬間が幸せです。たとえば、取材慣れしていない人にインタビューしているときに、心の扉が開いて、向こう側が見える――その瞬間に、予想しないものが出てきたり、思わぬところとの結びつきを発見できたりするんです。それを感じるときが一番幸せかな」(トミモトさん)
最後は参加者みんなで交流タイム
熱いトークセッションの後は、ゲストと参加者の交流タイム。積極的に声を掛け合い、会話を楽しむみなさんの姿が印象的でした。
みなさんのクリエイティブに対する熱量に、ノオトメンバーも刺激を受けました。ありがとうございました!
(執筆=モリヤワオン/ノオト 編集=関あやか/ノオト)