投稿日:2025年1月23日

「ローカルの現場から、編集の価値を高めていこう」岡山#ライター交流会 レポート

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2024年11月14日(木)、「杜の街ピクニックテラス」(岡山市北区下石井)にて有限会社ノオト主催の「岡山 #ライター交流会」が開催されました。2015年に東京・五反田で始まった#ライター交流会は2017年から全国展開し、これまでの開催回数は50回を超えています。

中国地方では7年ぶり、岡山県では初の開催となる今回は、岡山にゆかりのあるライター・編集者のお二人をゲストにお迎えし、トークセッション&交流会を行いました。ノオト社員も合わせて約50名が参加し、大いに盛り上がった当日の様子をご紹介します。

会場となった「杜の街ピクニックテラス」

グリーンもたくさんある広々とした空間をお借りました。

この日は岡山県内や近県在住のライターをはじめ、編集者、広報、デザイナーなど、メディア制作や運営に携わる方が続々とご来場。トークセッション前から隣席の人と名刺交換をしたり、同じテーブルを囲んで会話を弾ませたりと、会場は和やかなムードに包まれました。

岡山にゆかりのある編集者・ライターのお二人が登壇

今回のテーマは「これからの『地域編集・情報発信』を考える」。

トークセッションでは、編集チーム「Huuuu」のメンバーでWEBメディア「ジモコロ」編集長を務める友光だんごさんと、フリーランスで編集・ライター・書店店主と幅広く活動するあかしゆかさんのお二人が登場しました。

友光さんは岡山県岡山市生まれ、神奈川県在住。大学卒業後に出版社で編集の経験を積み、現在は「Huuuu」のメンバーとして全国を飛び回りながら多彩なコンテンツを手がける編集者・ライターとして活躍中。編集の力で地域や人の持つ魅力を発信し、新たなアクションにつなげる仕事をしています。

京都出身のあかしさんは、大学生の頃に書店でのアルバイトを経験。現在は、フリーランスの編集者兼ライターとして活動するかたわら、2021年に岡山県倉敷市児島に海の見える本屋「aru」をオープンしました。現在は東京と岡山の二拠点生活をしながら仕事を続けられています。

岡山に縁があり、ローカルな編集や情報発信に携わってきた豊富な経験をお持ちのお二人。9つのキーワードをもとに、具体的な事例を交えながらお話をしてくださいました。

編集・ライターの役割・領域が広がっている

最初のキーワード「仕事のバランスは?」について、あかしさんは「編集・執筆・書店が3割ずつ、講演などの活動が1割。各地をさすらいながら仕事をする今のスタイルが好き」と笑います。

そもそも、旅行でたまたま訪れた児島で過ごした時間に心が癒された経験から、ここで本屋を開こうと決意したというから驚きです。

「始めから完璧な二拠点生活ができたわけではなく、友人の力をかなり借りながら、段階的に自立していきました。ゆっくりと生活を整えて、地域の人と関係性を築いてくのは楽しいです。二拠点生活を始めてからは、地方の仕事が増えましたね」(あかしさん)

友光さんも、「地方で出会う友人・知人の存在が街を面白くしてくれる」と話し、二人とも「地域と関わるには人との関係づくりが大切」と声をそろえます。

WEBメディアの編集や企業のブランディングなどを行う友光さんは、地方と仕事がテーマの「ジモコロ」や、お風呂文化を深掘りする「おふろタイムズ」といったオウンドメディアのユニークなコンテンツ制作の実績があります。また、Huuuuでは長野市で運営するスナック「夜風」などでの街のイベントや、コミュニティの主催といった「場の編集」も実践。友光さんは、地域につながりと面白さを生み出す手段として「編集の領域が広がっている」と感じているそう。

(左)友光だんごさん(右)あかしゆかさん

バズらせるよりも、届けたい人に想いをこめる

続いてのキーワードは、「地域への情報の届け方」。お二人がどのように感じているのか聞いてみました。

「WEBメディアが過渡期を迎えた今、WEBの情報にたどり着くための入口をどう作るかが大事。ローカルメディアなら、街の掲示板や紙媒体、お店などのリアルな現場から発信するほうが地域の人に届きやすい場合もあります。あかしさんのように実店舗を持ったり、ZINEを制作したりといった手ざわり感のあるアプローチも効果的で、各媒体の良さを掛け合わせる仕掛けも編集でやれることだと思います」(友光さん)

あかしさんが営む本屋「aru」の内観(あかしさん提供写真)

「編集の仕事では能動的に人と会っていますが、本屋では『お客さんを待つ』という違ったベクトルの面白さがあって、場所から生まれる関係性に魅力を感じます。情報発信についても、体温が大事な時代だと思っています。『街に人を呼びたい』となった時に、万単位のPVでバズる記事で注目を集めるよりも、その地域に足を運んでくれる10人のファンに向けて想いを込めるほうが、本当の意味で地域のためになると思います」(あかしさん)

さらに、友光さんからは「会社の編集」というワードが飛び出しました。

「PV数とは違う指標を含めて、編集そのものの価値がクライアントにもっと伝わるといいなと思っています。

『WEBメディアをやりたい』という相談に対して課題や悩みを掘り下げてみると、それが実はもっと別のアプローチが必要な場合も結構ある。単なる記事を作るだけでなく、そういう『クライアントに深いところまで寄り添い、本当に必要なアイデアを提案・実行する』のも“編集”だと思っていますが、そうした“編集”に対して企業の上層部に価値を感じてもらえず、なかなか予算が付かない、といった事例もまだ多いですよね」(友光さん)

また、「現場のコンテンツ制作に応えるだけじゃなく、上流部からクライアントの理念や求めることをきちんと言語化して、社内に共有する。そういった、いわば“会社の編集”作業も、実は編集者やライターの得意技なはず」と求められる役割の広がりにも言及。

「編集者・ライターに求められる役割の変化にどう対応すればいいのか?」という司会者からの質問に対して、友光さんは「細分化してみるのが良いかも。キャリアコンサルが得意な『生き方編集者』と名乗っている知人がいるのですが、『〇〇ライター』『〇〇編集者』の〇〇に入る肩書を考えてみると役割が明確に。自分の強みや専門性を考えるきっかけになる」と回答。

あかしさんは「私はあまり肩書きを明確にしたくないタイプです。得意領域はあったほうがいいと思いますが、決めすぎるとそのジャンルだけに依頼が固まってしまうことも。この人ならこんな仕事も受けてもらえるかな?と、楽しい仕事にお誘いしていただくために、少しの余白を大切にしています」と質問を返しました。その一方で、マルチタスクになりがちな文章界隈の業務をきちんと振り分けて定義することの必要性は感じているとか。チームで分業するのも解決案ですが、限られた予算の中では難しい場合もあります。

「改めて、編集にお金を払う価値があることを知ってほしい」と友光さん。編集・ライターの価値をどのように伝えるかは、これからの仕事において重要なテーマになりそうです。

岡山のポテンシャルと、地域のつながり

トークセッションの終盤では、岡山で今注目していることをお聞きしました。

「備前エリアがアツいですね。デザイナーさんを中心としたコミュニティでフリーペーパーや街歩きの企画を主宰していたり、個性あふれる中南米美術館などのカルチャースポットがあったりと面白さを感じています。父の地元ということもあり、盛り上がっていくとうれしいです」(友光さん)

「岡山は本当に魅力的な土地。自然や食の魅力はもちろん、酒場や音楽、アートや文学もとっても盛り上がっていて、毎日が楽しくて仕方ないです。岡山のカルチャーは東京に負けないくらい面白いと思っています。いつか、岡山の面白さをまとめた雑誌や本を作ってみたいです」(あかしさん)

「岡山の情報を他の地域に伝えていくためには?」という質問に対し、「SNSでバズって伝わることもあるけど、話題になりすぎる弊害もある。お店や場所が守りたい空気感が壊れてしまわないようなバランスで、温度を持って届けることが大切だと思います」とあかしさん。

「取材対象者やコンテンツをつくることに対して誠実であること。取材対象に影響を与えてしまう立場だからこそ表現や発信に責任を持ち、その後を伝えていくこともメディアができることなのかな」(友光さん)

参加者からの質問にも具体的なアドバイスでお応えくださったお二人による、約60分のトークセッションはあっという間に終了。参加者のみなさんも真剣に耳を傾けながら、こまめにメモを取っていたのが印象的でした。

後半は参加者みなさんでの「交流タイム」

トークセッション後は、お弁当&ドリンクでお腹を満たしつつ、交流タイムがスタート。イベント終了の21時まで自由な交流を楽しみました。

岡山市内のケータリング&レストラン「ish dish」の特製弁当を用意しました。

お互いの自己紹介やトークの振り返りなど、思い思いの話題で盛り上がる参加者のみなさん。友光さんやあかしさんも交えつつ、さまざまな話題で盛り上がった様子でした。

交流会も1時間ほどでお開き。「まだまだ話足りない」といったムードの中、参加者同士で「またお会いしましょう」「プチ交流会開きませんか?」といったうれしい声も聞かれました。この会をきっかけに、編集やライティングに関わる人の顔が見える学び場、つながりの場が、岡山周辺でも少しずつ増えていくことを期待しています。

参加していただいたみなさま、ありがとうございました!

(執筆=溝口仁美 編集=ノオト)

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