投稿日:2023年12月27日

専門性・得意ジャンル・マニアをどう活かす? 五反田 #ライター交流会レポート

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2023年12月16日(土)、五反田のコワーキングスペース「Contentz」にて、有限会社ノオト・合同会社別視点のコラボで「五反田 #ライター交流会」が開催されました。50名参加で満員御礼、大賑わいとなりました。

今回の #ライター交流会は、トークセッションと交流タイムの二部構成。トークセッションには、神社や街歩き好きのライター・井口エリさんと、ぶどうマニアのライター・編集者の少年Bさんが登壇。司会進行は、マニアが勢ぞろいするイベント「マニアフェスタ」主催の合同会社別視点代表 松澤茂信さんが担当しました。

専門性をアウトプットして、仕事に繋げる

今回のトークテーマは「専門性・得意ジャンル・マニアをどう活かす?」。神社・ぶどうという得意ジャンルを持つお二人に、ライターとして専門性を発揮するコツを伺いました。

井口:神社のお仕事をしながら、フリーライターとして、ねとらぼやデイリーポータルZなどのWeb媒体に寄稿しています。神社マニアと周りから言われることが多いんですが、私自身、神社は好きだけどそこまでマニアだとは思っていません。

井口:もともと御朱印をきっかけに神社に興味を持って、現在は神社の授与品に関する仕事をしています。

小野照崎神社の御朱印の制作に関わっているんですが、こちらの御朱印帳「うすいんちょう」にも少しだけ関わらさせていただきました。カバンの中に入れてもかさばらないよう、通常よりも薄い御朱印帳になっています。御朱印のイラストは月ごとに変わるので、その世界観や載せる文章のアイデアをデザイナーさんやイラストレーターさんと毎月会議しながらアイデアを出しています。

趣味的な活動としては、神社とネオン会社さんを繋げて鳥居型のネオン「天壌無窮の鳥居ネオン」の奉納を実現しました。羽田の穴守稲荷神社で見られます。

▼神社にネオン? 穴守稲荷神社「無窮の鳥居ネオン」奉納はこうして実現した 丨デイリーポータルZ

少年B:ライターと編集者とぶどうマニアを生業にしていまして、「日本一ぶどうを食べている男」と名乗っています。

少年B:ぶどうの記事はグルメ系メディア、農業系メディアでちょこちょこ書いていますね。ぶどうの魅力をじわじわと広めるべく、地道な活動をしています。

とはいえ、ぶどうの記事はそんなに需要がなくて、年数本しか仕事の依頼がありません。だから、ぶどう以外も何でも書きます。メインの仕事として、働き方メディアでフリーランスの働き方とか専門性をどうやって身につければいいかをインタビューしています。

趣味として、食べたぶどうをひたすらアップするInstagramアカウント「今日のぶどう」もやっています。

松澤:お二方は、どういう経緯で専門性がある記事を書くようになったんですか?

井口:私はもともと神社が好きだったわけではなくて、ライターのお仕事を通じて御朱印の魅力に気づいて、好きになっていったパターンです。

少年B:自分は11年前、ライターを始めるより前にぶどうが好きになったんですけど、わざわざ写真撮ったり、インターネットにアップしたりはしていなくて。7年間ぐらい、誰にも言わず一人でひたすらむしゃむしゃ食べていました。

ライターになって、ちょっとずつ「ぶどう好きを出していった方がいいのかな」と思って。それで、Twitter(現・X)に「こういうぶどうがあるよ」とか「このぶどう、おいしいよ」とか書くようになりました。そこから、だんだん仕事に繋がっていきました。

松澤:かなり長い期間、アウトプットを前提にしてないインプットをされていたんですね。 

少年B:写真を撮ったり、記録したり、食べてレビューするのが、めちゃくちゃ面倒くさくって……。何も考えずに「ああ、うめえ」って食ってるだけだったんですよ。

ぶどうの記事を書くようになってからは、仕事なんでちゃんとやるんですけど。アウトプットしはじめの頃は「このぶどう食べたいな、でも写真撮るのめんどくさいから明日でいいや」みたいな感じで、どんどん食べるのを先延ばしにしてました。

松澤:井口さんもインプットだけする期間ってあったんですか? 記事にしようとかあまり考えてないけど、好きで神社に通っていた期間。

井口:私の場合は、好きで通うようになると同時に、インターネットで発信するようになりました。発信することで神社が好きな人たちと繋がって、ますます楽しくなっていって。自然に楽しくアウトプットしていました。

松澤:その時は、ライターとしてお仕事をされてらっしゃったんですよね。

井口:そうですね、ライターの仕事を通じて「あ、御朱印って素敵かも」って気づいたので。ライターを始めて2年目ぐらいで神社に目覚めました。神社を扱うことが増えていって、どんどん神社って面白いなって思えてきました。そこから積極的に神社を巡るようになってアウトプットも始めて、神社のライターとしてお声がかかるようになりました。 

知識量に特殊な体験をかけ合わせて、唯一の存在になる

松澤:神社を巡った数、ぶどうを食べた数はどれくらいですか?

井口:神社は630社で、お寺も200寺ぐらい行ってます。でも、神社って全国で10万社ぐらいあるので、途方もなくて……。

松澤:10万社! 寺社仏閣ってコンビニより多いんですよね。

井口:一生かけて突き詰めようと思える趣味に、この段階で出会えたのはラッキーです。

松澤:記事を書く際、神社に行った感想を言語化しなきゃいけないじゃないですか。少年Bさんのように、その部分に葛藤や面倒くささはありませんか? むしろお好きですか?

井口:すごく好きです。神社って、例えば「氷川神社」とか「八幡神社」とか、同じ名前が付いていたら御祭神が大体一緒なんですけど、御祭神が一緒だったら神社自体もだいたい同じなのかというとそんなことはなくて。実際に行ってみると、同じ名前の神社でも絶対に違いがある。その差を見つけるのもすごく楽しい。

松澤:おお、お好きならいいですね! 少年Bさんは、どれぐらいぶどうを食べました?

少年B:正確にカウントしてないんですけど、大体300品種ぐらい食べています。全世界でぶどうは2万品種以上あるんですが、まあ半数以上はワイン用なんですよ。ぶどうって種まいて出てきたら別の品種になるので。正確に何品種あるかは誰にも分からないんですよ。

松澤:300品種も食べていると、味がかなり違う物もあるでしょうけど、ほぼ同じ味の物もありますよね。そういう時どうされているんですか?

少年B:「ああ、分かんねえな」って思いながら食べてることもあります(笑)。同じ親から生まれたよく似た品種があったりすると、もうぜんぜん分からない。「何でこれを別品種として出したの!?」って思うこともあります。

松澤:量をこなすというところで、参加者からいただた質問があります。「いやいや、自分なんてまだまだから、このジャンルなら自分にお任せくださいと気持ちが変わった瞬間は何ですか?」という質問です。何か自信がついたきっかけはありましたか?

井口:今も完全に自信があるわけではないです。自分より神社に詳しい方はごまんといますし。ただ、ネオンの鳥居を奉納したことがあるのは私ぐらいだと思っています。非常勤巫女もやらせていただいているし、神社の御朱印に携わってもう6年ぐらいになる。ライターをしながら、こういうことをやりましたよと言えるかな、という感じです。 

松澤:巡った数や知識量だけで戦うというより、特殊な体験をかけ合わせて唯一の存在になったということですね。

少年B:自分の場合は、ぶどう好きを表に出すまでに7年間食べ続けてきたので。それまで、ぶどうの話をしたいと思っても、話が通じる人が誰もいなかったんですよね。「このぶどう、超いいよね」って、広く売られてない品種のことで盛り上がれる人って誰もいなくて。なので、はじめのうちから、もう自分より詳しいやつは農家さん以外におらんやろうみたいな感じでした。

温泉も結構好きで、今まで全国600カ所ぐらい入っているんですけど、インターネットで調べると2000〜3000カ所と入っているブロガーさんが沢山いて……。そっちはもう、詳しいというのもおこがましいので、そっちはただただ好きで入っています。

松澤:私の場合、マニアフェスタというイベントを主催していて、何かに詳しい方々と知り合う機会が多いんですが。「出展しませんか?」とお誘いすると、マニアな方ほど「私なんて、まだまだです」と言うんです。

知れば知るほど上の人がいることが分かるし、「あれも知らない。これもまだ知らない」と全体の中で知っていることのパーセンテージが相対的に低くなってくるんですよね。知識の絶対量は増えているけど、知っている率は下がる……みたいな。そうすると、「まだまだ私なんて」となりますよね。

初めて仕事になった経緯は?

松澤:好きでやっていたことが、初めて仕事になった時の経緯を詳しく聞かせていただけますか?

井口:多分、御朱印に詳しいライターとしてお声がかかったのは、グルメ×御朱印のかけ合わせの連載が最初です。その後、旅メディアで「善光寺の御朱印を巡ってください」って依頼が来ました

▼御朱印でごはんは美味くなる…!秋葉原「柳森神社」からの「カレーノトリコ」の絶品あいがけカレー – ぐるなび みんなのごはん

▼善光寺の御朱印がすごかった! 22の御朱印をいただく長野週末旅びゅうたび 

松澤:その旅メディアの担当者は元々お知り合いなんですか? それとも面識はなくて、検索して井口さんが引っかかって声をかけた感じでしょうか?

井口:ぜんぜん知らない方で、メールで依頼が来ました。過去に書いた記事を見て、お問合せいただいた感じです。書いた記事がポートフォリオになっている状況です。その頃にテレビからもお声がかかって「月曜から夜ふかし」に出させていただいたんですけど、マツコさんにはぜんぜん興味を持っていただけなくて(笑)。

松澤:テレビに出演された効果はありましたか? 仕事に繋がったとか。

井口:特にない気がします。本当に一瞬の出演だったので。

少年B:自分の場合は、最初の記事はぶどうじゃなくて、おもしろ系みたいな感じで書いていたので、全然ぶどうと違うところからライター業をスタートしました。

旅行系メディア「SPOT」へ自分から執筆の営業をした際に、「自分はぶどうマニアで、山梨の勝沼に通っているので、勝沼のぶどうを紹介する記事が書けます」みたいなアピールをして。そのまま企画が通って書かせてもらえることになって、それが最初のぶどう記事ですね。

▼勝沼ぶどう郷に7年通った筆者がおすすめのぶどう狩りを伝授! | SPOT 

専門性を活かす戦略は「エリアを絞る」「好きなことをかけ合わせる」

松澤:専門性を活かして仕事を伸ばす戦略はありますか? 私の場合ですと「東京別視点ガイド」という珍スポットのブログを10年以上やっていまして。ブログを始めた頃から、そのジャンルで有名な方が沢山いたので、まっすぐ立ち向かうと勝てないと思いまして。

当時は、週5の派遣社員として働きながらの兼業ライターだったので動ける時間も限られますし、エリアを東京に絞りました。東京×珍スポットなら1年もあれば一番詳しくなれるかなと。東京×珍スポットである程度知られるようになってから、じょじょに全国にエリアを広げていきました。そんな感じの意図的な戦略が、お二方にも何かあったかなと。 

井口:私は、かけ合わせを意識しています。神社はニッチというよりメジャーなジャンルだと思うんですよ。みんな知っているし、近所にも絶対あるはずだし、参拝は年1回だとしても常に意識はしている存在なので。だからと言って、神社だけだと興味を持ってくれる方が限られるので、かけ合わせを意識しています。

▼『スプラトゥーン3』勝ちたいからエイムの神様・那須与一公ゆかりの神社に祈願した | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com 

井口:ファミ通で神社の記事を書いたことがあって。スプラトゥーンで勝ちたいので、ご利益がありそうな神社を紹介する記事です。那須与一って、つまり“エイムの神様”では?とか。その他にも勝負とか、名前に鬼が入っている神社を巡って。

松澤:那須与一ってエイムの神さまなんだ(笑)。扇、射貫きましたもんね!

井口:編集者さんも面白がってくれる人だったので、会議の雑談からこの企画をねじこむ事に成功しました。

松澤:好きなことをかけ合わせているんですね。Bさんはいかがですか?

少年B:自分は正直、戦略ってまったく何もなくて。ぶどうって大体ワインの文脈で語られるんですよね。ワイン好きが、このワインはブルゴーニュ産で○○という品種からできている……みたいな。ピンポイントでぶどうだけを生食で300品種食べてる変な奴がいないんですよ。

なので、記事を3〜4つ書いていた時点で、ぶどうといえばこいつだってなって。そこからはスルスルッと今の位置にいる感じです。

松澤:ぶどうってほぼ全員が知っている果物なのに、ワインじゃない生食の情報があまりないって面白いですね。

少年B:そうなんですよ。やっぱりスーパーに売られている物は知っているけど、品種が全部で何種類あるとか、どこでどういう品種が作られているとか意外と知られていません。

品種改良についてのホームページを覗いて、どういうぶどうが今作られているかとか、各地の試験場の試験結果の論文をPDFで読んだり、そういうオタクなことをやっていたりする人が他に誰もいなかったので。 そうすると、仕事相手が引くぐらいの知識量になってきますね。

書くのが辛い時、どうしてる?

松澤:書くのが辛い時、どうされていますか? いつも絶好調ってわけではないですもんね。 

井口:パソコンの前に座る。

一同:(笑)。

井口:SNSをやっちゃったとしても、パソコンの前に座って、Wordファイルを開いて、タイトルだけでもつける。それだけでもいいから、やっておきます。

松澤:書けなくてもいいから手をつける。大事ですね! Bさんはいかがですか?

少年B:辛くない時がない……。

一同:(笑)。

少年B:いつも辛いです。好きな分野だろうが、興味がない分野だろうがすべて辛い。自分がライターをやっていてすごく楽しいなって思えるのは、インタビューとか体験とかで。

普段だったら、初対面の人に根掘り葉掘り聞けないじゃないですか。「どんな仕事ですか?」とか「いくら稼いでるんですか?」とか普通は聞けないけど、取材なら何を聞いてもオッケーだし、記事に載せられないオフレコ話も聞かせてもらえて、そういうのがめちゃくちゃ楽しいなと思って。

でも、基本的に記事にしなきゃいけない時はすべて辛いんです。取材だけして、ここで仕事終わりにならないかな、って思っています。

井口:私は逆で、書くのが楽しいです。取材して知った楽しい情報を人に早く伝えたい。Twitterとかで発信するモチベーションも誰かに教えたいって気持ちです。

松澤:ああ、Bさん、こういう方がライターになるべきなのかも知れませんよ(笑)。

いろいろな面で対称的なお二人でした。ありがとうございました!

忘年会を兼ねて、たっぷり交流しました

質疑応答を経てトークセッションは終了。その後は、参加者同士での交流タイムです。

年末での開催ということもあり、忘年会を兼ねてたっぷり2時間設けました。

最後まで残ってお話をされていた参加者が沢山いて、大賑わいの交流会でした。参加していただいたみなさま、ありがとうございました!

(執筆:松澤茂信 撮影・編集:ノオト)

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