投稿日:2023年4月26日

京都在住ライター・編集者のリアルな近況は? 京都 #ライター交流会レポート

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京都市役所近くの共創施設「QUESTION」で3月17日、有限会社ノオト主催の「京都 #ライター交流会」が行われました。

#ライター交流会 を京都で開催するのは今回が初。京都在住のライターさんを中心に、近郊からもたくさんの方が来場されました。春の雨降り注ぐ夜でしたが、ゲストやスタッフも合わせて、参加者は総勢55名に。大阪在住ライターの藤田幸恵が、参加者の一人として当日の様子をレポートします!

はじめましての方が多く、私も最初は少し緊張ぎみでしたが、会場の熱気に包まれて「いろんな人と話さないともったいない!」という気持ちに。ゲストから、仕事を依頼されるきっかけや執筆のコツなどの話も出て、リアルなイベントならではの心地よい興奮を味わうことができました。

京都在住ライター・編集者に聞く、日々の仕事と暮らし

今回のテーマは「京都ライターの仕事と暮らし」。第1部は、京都で活動する5名のゲストを迎えてトークセッションを行いました。司会を務めたのは、2022年4月より1年限定で京都に住んでいたノオト代表で編集者の宮脇淳さんです。

1. 東京から京都へ移住 堀香織さん

1人目は、2022年2月に東京から移住した、フリーライター兼編集者の堀香織さん。引っ越しの多い人生で、京都の自宅は26軒目との発言に、会場ではちょっとしたどよめきが起こりました。仕事やプライベートで来るたびに、「京都に住んでみたい」と思っていた堀さんの背中を押したのは、自ら声をかけて飲み会を開いたときに参加してくれた京都や神戸在住のライターだったといいます。

「京都在住の4人のライターさんのなかで、京都出身はひとりだけだったんです。しかもみな結婚し、人によっては子どもを育て、家も建てている。京都は移住者にとってあまりウェルカムな土地ではないのかなと勝手に思っていたけれど、違うんだなと。あとは、コロナ禍で仕事のオンライン化が進んだことも大きかったですね」(堀さん)

移住から1年経ったいまも、仕事はほぼ東京からの依頼で、2年目は地場でどうやって仕事を得るかが課題とのこと。酒場で働くのが好き、人と出会うのが好きで、会場近くにある「日本酒BARあさくら」で毎週金曜日にアルバイトしつつ、そこで稼いだお金は別の日にあさくらで飲んで使ってしまうそうです。会場に映し出された堀さんのキーワードのスライドでは、きれいに「酒」がビンゴしていました。

「好き」を起点とする堀さんの行動力と好奇心に、石橋をたたいて壊しがちな私は、ガチガチに凝り固まった頭をほぐされた気持ちがしました。グダグダ考えてばかりいないで動かなければ!

2. 京都に引っ越して12年 吉村智樹さん

京都に引っ越したのは、再婚の条件だったから。そう語る吉村智樹さんは、関西を中心に活躍するフリーライター兼放送作家です。宮脇さんとの出会いは、2017年8月に開催された「神戸 #ライター交流会」で、ちょうどその頃にウェブ業界への進出を考えたといいます。

「あの時は転職するつもりで、神戸 #ライター交流会に参加したんです。いまは放送作家の仕事は1本だけで、あとはライティングだけで食べられるようになりました。クライアントの依頼で、執筆した記事をSNSでお知らせすることもあるのですが、その投稿を見て『この人は告知をしてくれるんだ』と思ってもらえたようで、新たな仕事の依頼をいただいたりもしています」(吉村さん)

2018年から『週刊大衆』で連載している「この人どエライことになってます!」では、関西でがんばっている方にインタビューしつづけ、掲載記事はすでに200本を超えています。関西広しといえども、週1の連載に合わせて取材相手を探すのは至難の業。しかも、取材交渉のうち半数近くはスムーズにいかないようです。

どうやってネタを探しているのか、どのように交渉しているのか。気になる疑問に対する答えが続くと思いきや、「この話の続きは第2部の交流会で直接、吉村さんに聞いてみてください」と宮脇さん。トークセッションは次のゲストにバトンタッチされました。気になる……!

3. 京都生まれ京都育ち 円城新子さん

次のゲストは、京都生まれ・京都育ちの円城新子さんです。円城さんが代表を務める株式会社union.a(ユニオン・エー)では、書籍やパンフレット、ウェブ制作物のほか、フリーマガジンを発行しています。なかでも『ハンケイ500m』は、京都ではよく知られているフリーマガジン。1600以上ある京都のバス停を中心に半径500mを歩いて回り、そのなかで出会ったおもしろい価値観を持った方たちを取材して特集記事を制作しています。

「京都では観光客向けの情報誌が多いのですが、『ハンケイ500m』は地元の方向けに作っています。とはいえ、メジャーな観光都市なので、地元のメディアは京都通の観光客の目にも留まりますし、観光目線でなければないほど『そこがいい』という方もいらっしゃいます。それが京都のおもしろいところですね」(円城さん)

円城さんはフリーマガジンを見たラジオ局からの依頼で、取材時のこぼれ話を紹介するKBS京都のラジオ番組『サウンド版ハンケイ500m』のパーソナリティーを2018年から務めています。こういった活動をきっかけに、読者やラジオ番組のリスナーに知られるようになり、さらに相乗効果でクライアントが増えていったそうです。

「今日もいろんなライターさんが来られていますが、円城さんに『興味があるんですけど』と話しかけても……?」との宮脇さんの問いに対して、円城さんからは「どしどし。出版社として、ライターさんたちとの接点をたくさん持ちたいですから」との力強いお言葉が。勉強会ではなく、つながりを生み出すことを目的とする #ライター交流会ならではの話題で円城さんのトークセッションは終わりました。

4. 4年前に京都に戻った 小田晶房さん

実際に会った回数は少ないものの、宮脇さんとは25年来の付き合いになる小田晶房さん。音楽誌の編集者を経てフリーランスのライター兼編集者になり、音楽レーベルやヴィーガン食堂を運営。現在は、京都のリソグラフスタジオの店主も務めています。

2人の出会いは、フリーランスになったばかりの小田さんに、当時クラブ雑誌の編集者だった宮脇さんがインタビュー記事の執筆を依頼したことがきっかけでした。「小田さんの原稿は本当に朱字が入らない。完璧だった」と当時を振り返る宮脇さんを前に、「若いころは生活のためにライターの仕事をさせていただいていたけれど、本当は編集者としてずっとやっていきたかった」と語る小田さん。現在、編集者の枠にとどまらず、レーベルや食堂、スタジオまで幅広く手掛けているのはなぜなのでしょうか。

「糊口をしのぐといいますか、食っていくには何かをしなくちゃいけないですから(笑)。とはいえ、嫌なことはやりたくない。また、常々、自分の趣味や感覚はオルタナティブなものだと思っています。王道のことができないし、オルタナティブなものでどうやって食っていけるかを考えた結果、すべて自分でやることにたどり着いた。食堂経営にしても、指示役ではなく、自分で毎日中華鍋を振っていましたから」(小田さん)

現在の仕事のメインはリソグラフスタジオです。リソグラフは理想科学工業のデジタル印刷機で、学校でプリントを大量に刷るときなどに使われています。独特な風合いの印刷が海外のアーティストに高く評価されている話になったところで、残念ながらタイムオーバーに。最後のゲストにバトンタッチとなりました。

5. 広島出身で京都在住 土門蘭さん

最後のゲストはライターの土門蘭さん。小説やエッセイ、短歌のほか、インタビュー記事などを手掛けています。宮脇さんは「土門さんとは実は初対面なんですよね」と切り出しつつ、「でも、土門さんのインタビュー記事はいつもネットなどで読んでいるので、いつか絶対お会いしたいと思っていたんです」と話しはじめました。土門さんがウェブで連載・執筆した『経営者の孤独。』(のちに書籍化されている)は、私も個人的にかなり注目していたシリーズです。

インタビューの動機はいつも「自分が聞きたいから」だと語る土門さん。最近、ウェブメディア「ジモコロ」に掲載された京都のパン屋さん「LAND」の記事もまさにそうで、「どうやったらこんなにおいしいパンをつくれるんですか」と、単純にその話を聞きたかっただけだったと振り返ります。実は、LANDは人気絶頂のまま2022年11月に閉店したばかり。閉店後の元店主さんにインタビューするというあまり見ないタイプの記事でしたが、いつもながらスッと心に響きました。

▼28歳の青年が立ち上げたパン屋「LAND」が、京都の伝説になるまで
https://www.e-aidem.com/ch/jimocoro/entry/domon05

「インタビューをするときは、読める限りの記事を全部読んで、その方の情報や言葉を自分の体に通した上でインタビュイーに向き合っています。すごく大変ですし、読んだ内容を忘れちゃったりすることもありますが、調べたことを部分的に忘れたとしても、読んだっていうだけで少し自信がつきますし、礼儀の一つとしても欠かせないことかなと思っています」(土門さん)

「土門さんのリードが好きなんですよ。リードにこだわるライターさんが増えてほしい」と語る宮脇さんの話を受けて、リードの書き方を紹介してくれた土門さん。高校時代のクラスメイトだったある女性を読者に想定して、京都の文化にも経営者にも興味がない彼女に、「いまからこういう人がしゃべるんだな、それなら私も読んでみようかな」と思ってもらえるように書いているとのお話でした。これは参考になる……!

軽食&ドリンクを片手に交流タイム!

約1時間にわたるトークセッションは本当にあっという間で、もっともっと聞きたかったというのが正直な感想でした。けれど、これこそが #ライター交流会のねらいです。「続きは交流タイムで」の言葉に促されるように、私もビール片手にいろんな方とはじめましてのごあいさつをして、大いに交流を楽しみました。

今回は新たな試みとして、イベント中にコメントを投稿できるウェブサービス「Slido」を導入。そこに書かれたコメントや自己紹介文をもとに、交流会の間に話しかけたい方を探すことができました。行きたいときに行きたい場所に行くこと、会いたい人に会うこと、そして話したい人と話すこと。それって、本当はとても貴重なんですよね。この気持ちを忘れないようにしなければ。

参加者の皆さんからいただいたコメントの一部もご紹介します!

「まだライター歴が浅いので、正直、交流会に参加するのがとても緊張したのですが、穏やかな雰囲気でとても安心しました」

「いろんな人が登壇して、短い時間で濃い話をどんどん聞けたので、集中力が途切れずに最後まで前のめりで楽しいお話を聞けました! ありがとうございました!」

「面白かったです! 集まっている人、一人ひとりが楽しい活動をされていると思うので、できる限りたくさんの方と話したいです」

「リードの書き方や普段プロの方々がどうやって文章を書かれているのか、具体的なお話が伺えたことがとても学びになりました!」

「いろんな方のお話が聞けるの、とてもよかったです。1人の方を掘り下げるのも良いですが、いろんなジャンルの方の話を少しずつ聞けるほうがお得な気がします」

「ライターさんの生の声が聞ける機会は滅多にないので、すごくいい時間でした!」

第1部の最後に、恒例の記念写真をパシャリ。

日々、ライターの仕事をしているなかで、ふと「本当にこれでいいのかな」と不安になることってありませんか? ライティングにしても、編集業務にしても、こうすれば正解という明確な答えがあるわけではなく、いまだに初稿を送るときはドキドキしますし、私の朱字を見たライターさんの反応も気になりますし、書くのは苦しいし、悩みは尽きません。

けれど、ライター、編集者という同じくくりでもこんなにいろんな人がいて、ジャンルもバラバラで、考え方も本当に人それぞれで。そりゃ正解なんてないわ、私は私でいいんだと、そう改めて思いました。たくさん笑ったなあ。

ゲストの皆さん、参加者の皆さん、本当にありがとうございました! また京都で#ライター交流会が開催される日を心待ちにしています。

(執筆=藤田幸恵)

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